はじめに
読譜は必須の能力ではありません
ギターレッスンを行う中で、初心者の方から「楽譜が読めなくても大丈夫ですか?」とよく質問を受けます。
その際にお伝えするのは、楽譜が読めると便利ではありますが必須ではないということです。
それよりも『聞いた音を楽器で演奏できる能力』の方がはるかに重要です。
これは、会話に例えると「相手の話を聞く力」と「自分の考えを伝える力」に相当します。
楽譜は音を視覚的に表現したものであり文字と同じ役割を果たしますが、文字が書けなくても会話ができるように、楽譜が読めなくても楽器を演奏することは可能です。
盲目の有名ミュージシャンも多いです。
そのため、読譜はあくまで補助的なスキルだと考えてください。
そのことを念頭においた上で、まず楽譜が役立つのはどのような場面なのか具体的に見ていきましょう。
楽譜が役にたつ場面① 人に伝えるとき
楽譜は、音楽を他人に伝える手段として非常に便利です。
いちいち口頭でフレーズやリズムを説明したり楽器で演奏して伝えるのは時間がかかり、非効率です。
それは、台本無しに口伝えで演劇の稽古を行うようなものです。
楽譜があれば、相手に演奏してもらいたい内容を明確に伝え再現してもらうことができます。
また、楽譜があると内容を忘れてしまったときも安心です。
ただし、楽譜に書かれた音符をそのまま演奏するだけでは音楽のニュアンスまで表現することはできません。
例えば、同じ「~してください」という言葉でも、優しく言うか怒った口調で言うかで意味合いが変わるように、音楽にも感情や表現が必要です。
楽譜は音符しか示していないため、その点が楽譜のデメリットでもあります。
楽譜が役にたつ場面② 長い曲を演奏するとき
長い曲や複雑な曲を演奏する際、すべてのフレーズを暗記するのは難しいものです。
例えば結婚式でスピーチをする場合、すべての内容を覚えて話すのは難しいため多くの人がメモを持って臨むと思います。
それと同じ様に、楽譜は長い曲を演奏する際のカンペとして役立ちます。
忘れた部分を楽譜で確認することで、演奏を続けることができるのです。
読譜を習得するにあたって
楽譜には「音符」と「リズム」を表す記号があります。
音符の形状は「ドレミ…」など音の高さを示し、リズム記号は音の長さやタイミングを表します。
オタマジャクシの部分が前者で、棒や旗の部分が後者に相当します。
TAB譜を使う場合オタマジャクシは関係ないのですが、棒や旗はTAB譜においても重要です。
ですので、まずはリズム記号に焦点を当てて、次の項目で読み方を解説していきます。
リズム編① 8ビート
まずはリズムの読み方に焦点をあてて解説していきます。
最初は『四分音符』や『八分音符』という2種類の音符を使用します。
これらの音符で構成されたリズムのことを、日本では8ビートという呼び方をしています。
Ex-1 四分音符

1小節はワンツースリーフォーの4拍で成り立っています。
1拍につき1回音を鳴らすと、4回音を鳴らすことになります。
これが四分音符という名前の由来です。
全てダウンストロークで4つの音符を弾いてください。
Ex-2 八分音符

タ(↓) ー(↑) タ(↓) タ(↑) といった具合に、一文字につき腕を一振りするようにしてください。
「ー」の部分は弦には当てずに空振りさせます。
Ex-3

Ex-2に八分音符を追加した譜例です。
Ex-4 タイ

タイは、前と後ろの音を繋げる記号です。
ギター的には「後ろの音が空振りになる」記号と覚えてください。
Ex-5 八分休符

八分休符は、名前の通りお休みの記号です。
これもギター的には空振りの記号となります。
タイは音を止めずに伸ばし続けるのに対して、休符は明確に音を止める場合に用いられます。
右手の小指側の側面で弦に触れる(ミュートする)ことで音を止められます。
Ex-6 ブラッシング

休符は音をミュートするだけでしたが、ブラッシングはそれに加えてミュートした状態の弦をストロークするテクニックです。
「ザッ」という音が鳴れば成功です。
リズムにアクセントをつけるために頻繁に用いられます。
Ex-7 付点

音符に黒点が付くと、正確には「1.5倍の長さになる」という意味なのですが、まずはシンプルに「一文字分増える」と覚えてください。
Ex-8 練習課題

リズム編② 16ビート
前項の『四分音符』や『八分音符』に加えて、この項目では『十六分音符』を使用します。
また、バックビートの感覚やグルーブ感を出すためのコツも交えて解説します。
Ex-1

タ(↓) ア(↑) ア(↓) ア(↑) といった具合に、1回弾いて3回空振りするようにしてください。
それが1サイクルとなります。
ただし、意識的に腕を振るのではなく、地面に当たったボールがバウンドするように重力や慣性に逆らわない動作を心がけてください。
『一回の動作で腕が2往復する』というイメージです。
Ex-2

四分音符に十六分音符を加えたものです。
以下の点を守ることでリズムの要点が掴みやすくなると思いますので、注意して弾いてみてください。
・青い音符はコードのルートのみ弾いてください。
・赤い音符は意識して強めに弾いてください。
・黒い音はあまり意識せずに「弦に触れた」くらいの感覚で弾いてください。
Ex-3

Ex-2を少し複雑にしたリズムです。
Ex-4 タイ

Ex-3にタイを加えたリズムです。
Ex-5 十六分休符

十六分休符を加えたリズムです。
Ex-6 ブラッシング

Ex-5の休符をブラッシングに変えたリズムです。
Ex-7 付点

Ex-8 練習課題

おたまじゃくし編
五線譜を読むのが苦手な方も多いかと思いますが、視覚的にわかりやすい音をいくつか覚えておくとスムーズに読めるようになります。
真ん中のシと皿にくっ付いたシ

真ん中の音は『シ』の音です。
また、線から外れた皿にくっ付いたような形の音符も『シ』の音です。
両端のファミ串

両端の串に刺さった音は『ファミ』です。
3つのドラ

『ドラ』が3つ並んでいます。
その他の音

それ以外の音は、上記で覚えた音の1つ上や1つ下という風に数えてください。
さいごに(最も重要なコツ)
いかがでしたでしょうか。
最後に、読譜を習得するうえで最も重要なコツをお伝えして終わりたいと思います。
それは、私たちが子供の頃にどのように日本語という言語を習得したかを思い出してほしい、ということです。
普段、文章を読むときのことを想像してください。
例えば「昔々あるところに…」という文章を読む際、一文字ずつ「む」「か」「し」と読むのではなく、文章全体として意味を捉えているはずです。
さらに、その後の「おじいさんとおばあさんが…」という流れを予測しながら読み進めることもあります。
楽譜を読む際も、これと同じ感覚です。
楽譜に「ドレミ」と書かれていたら、一音一音の位置を覚えるのではなく、「ドレミ」というまとまりとして『形』を覚えるようにしましょう。
リズムも同じです。一つ一つの音符ではなく、「この形はこういうリズムだな」と全体の形を覚えていくことが大切です。
曲を覚えれば覚えるほど、頭の中にいろいろな楽譜の『形』がストックされていきます。
これは、読書を重ねることで語彙が増えていくのと似ています。
その作業を積み重ねることで、やがて初見の楽譜でも曲をスムーズに弾けるようになります。

